大正ロマンの漂う、和と洋の融合・・・
『音羽山荘』
京都には歴史と立派な格式のある有名な料亭旅館がいくつかあるが、そのサービスや立地などを考えると、あまりにも宿泊料が高すぎる。駐車スペースさえ満足に確保できない都心の雑踏の小さな空間で伝統と格式に胡坐をかいているとしか思えない。京都という土地の利だけではなかろうか。
何度かこの音羽山荘にはお世話になったが、その都度、女将やマネージャー、そして、時には社長自ら丁寧にご挨拶をいただく。この場を借りて御礼申し上げたい。
鮨会席を中心とした日本料理は、天然、有機、ヘルシー、産地直送と食材へのこだわりは徹底しており、専務さん自らウイットに富んだ会話とともにもてなしてくださる。食材だけでなく器にも大変凝っており、オールドノリタケのコレクターと知ると、100万円もするノリタケ100thコレクションの49ピースディナーセット『四季彩舞曲』を惜しげもなく使って、五感に訴える感動の美味しさを演出される。最高の食材と器の饗宴はまさに芸術といってよい。このノリタケの『四季彩舞曲』はデビッドさんと神戸そごうでのノリタケ100周年記念展をご一緒した際、2人でため息をついて釘付けになった作品である。ノリタケだけでなく、専務さん自ら買い求めた有田焼や九谷焼なども楽しめ、箸おきが陶片というのも面白い。こんな高価なディナーセットがもし割れたら・・・という野暮な問いに、もう1セットございますので・・・という答えが返ってきた。ノリタケファンや器にこだわりのある方には、是非ともお薦めである。僅か4部屋の宿泊客に贅の限りをもてなし、人工炭酸温泉であるが、岩盤浴や足湯まで楽しめる。夏場は邸内でのヒグラシの鳴き声や清流のせせらぎと森林浴。そして、秋の邸内の紅葉は本当に素晴らしい。
今までオールドノリタケやノリタケ、あるいはアールデコに関する記述や記事が中心であったが、今回は少し視点を変えて、皆さんに素晴らしい隠れた山荘を紹介したい。
大正14年に料亭として大阪の箕面の山の麓に建てられたこの山荘は、その後、相撲協会や三井造船の保養所として使用されていたが、2006年4月にリメイクされ音羽山荘として蘇った。一から創りなおした方が寧ろ費用がかさまなくてすんだというくらい、随所にこだわりのある館である。由緒や歴史は比較的浅いが、大正ロマンの風情の漂う、和と洋のクロスオーバーのこの空間は、何よりも良心的な料金で訪れる人の日常を忘れさせ心身ともに癒してくれる。ガラス一枚をとっても大正時代のものをそのまま使用し、アールデコのエッセンスを取り入れたフロントの天井のステンドグラスや各部屋のテーブルコーディネイトも和洋のエッセンスが見事に調和する。